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【相場に魅入られた者たち:マーケットの狂気と栄光】第12回:逆張りの孤高、BNF〜数百億を稼ぎ出した男の「無欲」と「孤独」〜

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「PERやPBRなどの指標は一切見ません。ただ、株価が移動平均線からどれくらい下方に乖離しているか、その『乖離率』だけを見て買っています。」 ——BNF

2005年12月8日。日本の株式市場を震撼させた「ジェイコム株大量誤発注事件」。 みずほ証券の担当者が「1株61万円」の売り注文を「61万株1円」で誤発注したこの歴史的エラーの瞬間、画面の向こう側で冷静にこの異常事態を察知し、わずか十数分で約20億円もの巨利をかすめ取った一人の若者がいた。 後に「ジェイコム男」としてメディアの寵児となる個人投資家、BNFである。

アルバイトで貯めた約160万円を元手に株式投資を始め、最終的に数百億円とも言われる天文学的な資産を築き上げた彼。しかし、その圧倒的な栄光の裏にあるのは、私たちが想像する「億万長者」の華やかな生活とは完全に無縁の、極限まで削ぎ落とされた「孤独な狂気」であった。

光と影:数百億の資産と、カップラーメンをすする日々

メディアに登場したBNFの姿は、世間を驚かせた。 数百億円の資産を持ちながら、高級車を乗り回すわけでもなく、豪邸でパーティーを開くわけでもない。彼はただ、秋葉原の自宅に引きこもり、複数のモニターを並べて一日中チャートと板情報を見つめ続けていた。

「昼食を食べ過ぎると眠くなって相場への集中力が落ちるから」という理由で、昼食は決まってカップラーメン。服にも食事にも一切の無頓着を貫いた。 彼にとって、モニターに表示される何百億という資産残高は、現実世界で使える「お金」としての意味を完全に失っていたのだ。それは単なるゲームの「スコア」であり、彼はただひたすらに、相場というバグだらけのゲームをハッキングすることだけに己の全存在を懸けていたのである。

核心的思考:相場を丸裸にする「3つのシンプル極まる規律」

BNFの手法は、企業業績や将来性といった「ファンダメンタルズ」を完全に無視した、冷徹な値動き(プライスアクション)の追求である。

1. 究極の「乖離率」逆張りトレード

彼の代名詞とも言えるのが、25日移動平均線からの「マイナス乖離率」を狙った逆張りスイングトレードだ。市場がパニックに陥り、株価が理不尽なまでに売られすぎたタイミング(乖離率が極端に広がった瞬間)をピンポイントで買い向かう。大衆の恐怖が極限に達した時こそが、彼にとって最大のチャンスであった。

2. ファンダメンタルズの完全否定

彼は「企業の業績が良くても、相場全体が下がれば株は下がる。だから指標は意味がない」と言い切った。長期的な企業の成長に「祈り」を捧げるのではなく、目の前で起きている「資金の偏り」という現実だけを素直に受け入れ、資金の流れに乗る(あるいは反発を狙う)ことだけを徹底した。

3. 金銭感覚の意図的な麻痺

1日で数億円の含み損を抱えても、彼は全く動揺しなかった。お金を「生活を豊かにするためのもの」と考えているうちは、恐怖で損切りが遅れたり、欲に目が眩んで利確を急いだりしてしまう。彼は自らの金銭感覚を意図的に麻痺させることで、感情というノイズを相場から完全に排除したのだ。

現代への教訓:「欲」を捨てた者だけが見える世界

投資をする目的の99%は「お金を儲けて、いい暮らしがしたいから」である。しかし、相場という非情な世界では、その「欲」こそが判断を狂わせる最大の弱点となる。BNFの生き様は、欲を捨て、感情を捨て、ただ純粋に市場と向き合った者だけが到達できる「孤高の境地」を見せつけている。


編集後記(お祈りトレーダーの眼)

BNF氏の「数百億円を持ちながら、何の物欲もない」というエピソードに触れるたび、私自身の人間臭い「欲」の深さを痛感させられます。

彼のように、そうした世俗の欲や安心への執着を完全に断ち切ることは、普通の人間には不可能です。 しかし、いざ楽天証券のツールを立ち上げ、日経225先物の激しい板の動きを前にした瞬間だけは、私たちは彼と同じ「無欲で冷徹な機械」にならなければなりません。

私自身、相場に集中するために、朝から一日中モニターに張り付いてデイトレードに没頭する日があります。その限られた時間の中では、欲も平穏もすべて頭から締め出さなければ、一瞬の判断の遅れが命取りになります。

「どうか戻ってくれ」という祈り(欲)を切り捨て、ただ設定したルールの通りに無感情にボタンを押す。秋葉原の部屋でカップラーメンをすすりながら相場を支配した孤高の勝負師の姿は、私たちがモニターの前に座る時、いかにして「自分の中の欲」を殺すべきかという、究極の模範解答なのだと思います。