東京・池袋のサンシャインシティ内、多くの家族連れやファンで賑わう「ポケモンセンターメガトウキョー」で起きた、あまりに凄惨な事件。アルバイトの春川萌衣さん(21)が刺殺され、犯人の廣川大起容疑者(26)も自らの命を絶つという、やりきれない結末を迎えました。
破局後、接近禁止命令を無視してのエスカレートしたストーカー行為の末の犯行。社会に大きな衝撃を与えたこの事件ですが、集英社オンラインの取材に応じた容疑者の親族の証言からは、私たちが報道で知る「ストーカー加害者」とは全く異なる、容疑者の「別の顔」が浮き彫りになっています。
「彼女ができた!」母親に自慢していた容疑者
憔悴しきった表情で取材に応じた親族のA子さん。廣川容疑者は幼少期に両親が離婚し、小学校低学年で母親と関東から沖縄へ移住。中学時代には水泳の背泳ぎ選手として県中学校新記録で優勝するなど、将来を嘱望される優秀なアスリートでした。
その後、大学受験に失敗し、しばらく沖縄で働いた後に再び関東へ。被害者の春川さんと知り合ったのは、八王子市内のアルバイト先でした。
A子さんによると、容疑者は母親思いの一面もあり、庭の雑草を抜いてあげるなどしていたといいます。そして1年以上前、母親から「大起に彼女ができた」と嬉しそうな連絡があったそうです。容疑者が自慢げに母親に報告していた「彼女」が、春川さんだったのかは定かではありません。しかし、少なくともその時点では、容疑者の周囲には、ごく普通の、幸せな青年の日常があったように見えます。
繰り返された逮捕と、釈放からわずか2ヶ月での暴発
しかし、現実は、その「幸せな報告」から対極にある、最悪の方向へと転がり落ちていました。
2024年10月から始まった交際。1年も経たずに破局を迎えた原因は、春川さんが希望していたポケモンセンターにバイト先を変えたことへの、容疑者の不満だったとされています。離れていく春川さんへの執着は、付きまとい行為へと変貌しました。
昨年12月、廣川容疑者はストーカー規制法違反容疑で逮捕。さらに今年1月には、春川さんを盗撮した疑いで再逮捕されています。2度の逮捕を経て、「もう近づかない」と宣言し、釈放されたのは1月30日。それからわずか2ヶ月足らずの3月26日、容疑者はポケモンセンターのレジカウンターの中で働く春川さんを襲撃。防犯カメラには、倒れた被害者と自分を、意識がなくなるまで刺し続ける淒惨な様子が映っていたといいます。
家族も知らなかった「見えないSOS」と、残された人々の苦悩
この事件のもう一つの痛ましい側面は、容疑者の家族もまた、事態の深刻さを全く把握していなかったという点です。
A子さんも、容疑者の母親も、2人の破局や、容疑者がストーカー行為で逮捕されていた事実を全く知らされていませんでした。母親は事件報道を見ても、まさか自分の息子が関わっているとは夢にも思わず、「なんで最近こんな事件が多いんだろう」と感じていたといいます。
27日になって初めて、母親からA子さんに「どうしたらいいのか」「信じられなかった」とLINEが届いたそうです。1年以上前の「彼女ができた」という幸せな報告から、何が彼をここまで追い詰めたのか。家族であっても、本人の内面に抱えた闇や、エスカレートする危険な予兆に気づくことの難しさを、この事件は突きつけています。
廣川容疑者の足跡
生い立ち〜学生時代
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幼少期〜沖縄への移住: 幼少期に両親が離婚し、小学校低学年の時に母親とともに関東から沖縄県へ移住しました。
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水泳競技での活躍: 沖縄では競泳に打ち込んでいました。背泳ぎの選手として大会でたびたび上位入賞を果たし、中学時代には800メートルリレーのメンバーとして県中学校新記録を樹立し優勝するなど、優秀なスポーツ選手としての実績がありました。
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挫折と上京: 大学受験に失敗し、しばらく沖縄県内で働いた後、関東へと戻ります。事件に至る時期は、東京都八王子市内で一人暮らしをしていました(母親は神奈川県内へ転居)。
春川さんとの出会いと破局
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2023年12月(出会い): 八王子市内のファストフード店のアルバイト先で、被害者の春川萌衣さん(当時19歳)と知り合います。
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2024年10月(交際開始): 2人は交際をスタートさせます。
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2025年7月(破局の引き金): 春川さんが、以前から夢だった「ポケモンセンター」への転職を決めます。これに対し、廣川容疑者が「お前には向いていない、やめろ」などと否定的な言葉を投げかけたことが原因で関係が破綻し、交際が終わりました。これを機に、廣川容疑者の異常な執着とストーカー行為が始まります。
ストーカー化と逮捕・釈放
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2025年12月25日(最初の逮捕): 執拗なつきまといや待ち伏せを受け、春川さんが八王子署へ相談。同日、春川さんの自宅周辺をうろついていた廣川容疑者がストーカー規制法違反容疑で逮捕されます。この際、乗っていたレンタカーから刃渡り10センチの果物ナイフが見つかり、「復縁したかった。ナイフは自殺のため」と供述していました。
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2026年1月8日・15日(追送検と再逮捕): ナイフ所持による銃刀法違反での追送検に加え、スマートフォンから春川さんを盗撮した動画が見つかり、性的姿態撮影等処罰法違反の疑いで再逮捕されます。
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2026年1月29日(禁止命令と治療拒否): 警察からストーカー行為の「接近禁止命令」が出されます。この時、警察は精神科での治療やカウンセリングを勧めましたが、廣川容疑者はこれを拒否しました。
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2026年1月30日(釈放): 3つの罪で略式起訴され、罰金80万円を納付して釈放されます。釈放時、容疑者は警察に対し「もう近づきません。ストーカー行為はしません」と誓約していました。
事件当日
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2026年3月26日: 釈放からわずか2ヶ月足らずで、凶行に及びます。両手に刃物を持った廣川容疑者が池袋のポケモンセンターに押し入り、レジカウンターで接客中だった春川さんを襲撃。一度刺されて逃げようとする春川さんを執拗に追いかけ、十数回にわたり刺殺しました。その後、自身の首付近を刺して自殺しました。
水泳に打ち込んだ学生時代から一転、被害者の夢を応援できずに破局を迎え、警察の治療勧告も拒絶したまま短期間で最悪の暴発へと至った経緯が浮き彫りになっています。