2004年、アメリカ・アリゾナ州。 ホンダ車に乗っていた女性が、交通事故で命を落とした。 だが、彼女を襲ったのは衝突の衝撃ではなかった。 ステアリングから飛び出した金属片が、エアバッグの異常破裂によって彼女の首を切り裂いたのだ。
そのエアバッグは、タカタ製だった。
🧪エアバッグの仕組みと“静かな爆弾”
エアバッグは、衝突時に瞬時に膨らみ、乗員の頭部や胸部を守る安全装置。 その膨張には「インフレーター」と呼ばれるガス発生装置が使われる。 タカタは、コストと膨張力のバランスから硝酸アンモニウムをガス発生剤に採用していた。
しかしこの物質は、高温多湿の環境で劣化しやすく、爆発力が不安定になるという性質を持っていた。 結果、エアバッグが作動する際に金属容器が破裂し、金属片が飛散するという致命的な不具合が発生した。
📉リコールの拡大と企業の対応
- 2008年〜2017年:世界で8,100万台以上がリコール対象に
- 死者:世界で少なくとも18名(うち米国13名)
- 日本国内:2009年以降、1,883万台がリコール対象
タカタは当初、原因を「設計ミスではない」と主張。 しかし、米国司法省の調査で性能試験の虚偽報告が発覚し、通信詐欺罪を認める司法取引に応じた。
⚖️倒産と教訓
- 2017年6月:タカタは民事再生法を申請。負債総額は1兆円超
- スポンサー企業:中国系企業のKey Safety Systemsが支援
- 補償基金:被害者救済のため、1億2,500万ドルを設立
この事件は、戦後最大級の製造業倒産として記録された。
🧭製品安全と企業倫理への問い
タカタの不具合は、単なる技術的失敗ではない。 それは、コスト優先の設計判断、安全性検証の甘さ、そして不具合を隠蔽しようとした企業体質の複合的な崩壊だった。
部品メーカーであっても、命を預かる製品には絶対的な責任がある。 そして、リコール制度が“性善説”に基づいている以上、企業の誠実さが最後の砦なのだ。
✒️あとがき:爆ぜたのは金属片だけではない
タカタのエアバッグは、衝突の瞬間に命を守るはずだった。 だが、その瞬間に爆ぜたのは、金属片だけではなかった。 それは、企業への信頼、安全神話、そして「日本品質」への幻想だった。
この事件が残した教訓は、今も世界中の自動車メーカーと部品企業に突き刺さっている。