2018年10月。 油圧機器メーカー・KYBは、ある事実を公表した。 「免震・制振装置の検査データに不適切な取り扱いがあった」――。 その一文は、全国1,000棟以上の建物の安全性に疑問符を投げかけた。
🧪改ざんの構造:検査工程の“省略”
KYBと子会社カヤバシステムマシナリーは、 免震・制振用オイルダンパーの性能検査データを改ざんしていた。
本来の検査手順では:
- 規定値から外れた製品は分解・再調整・再検査
- 合格するまで繰り返す必要がある
しかし実際には:
- 不適合品を再調整せず、検査結果を“基準内”に書き換え
- 納期優先で、手間のかかる工程を省略
- 改ざんは少なくとも2003年から2018年まで15年間継続
🏢影響の規模と対象物件
- 改ざんの疑いがある製品:約1万本以上
- 対象物件:全国で987件以上(官公庁舎、空港、五輪施設、マンションなど)
- 最大乖離値:42.3%(基準値からの逸脱)
特に問題なのは、震度6強〜7に耐えるべき装置が、性能を満たしていない可能性があること。 一部物件では第三者機関による構造計算で安全性が確認されたが、 住民の不安、資産価値の低下、風評被害は避けられなかった。
📉なぜ止められなかったのか?
- 検査員は「納期を守るために作業を省いた」と証言
- 不正は口頭で引き継がれ、組織的に常態化
- 社内では、2005年の耐震偽装や2015年の東洋ゴム事件を受けても自浄作用が働かなかった
つまり、“品質より効率”という空気が、技術者の倫理を侵食していた。
🛠️対応と再発防止策
KYBは以下の対応を発表:
- 対象製品の交換工事(完了は2020年以降)
- 検査工程の見直しと自動記録化
- 第三者委員会による調査と報告
- 国土交通省による監督強化と制度見直し
日本学術会議は、第三者機関による抜き取り検査の導入や 実大試験施設の整備を提言している。
✒️あとがき:揺れを吸収するはずの信頼
KYBが売っていたのは、オイルダンパーではない。 それは、“揺れを吸収する安心”だった。 だが、検査工程の省略、数値の書き換え、そして15年にわたる沈黙。 そのすべてが、建物の安全性と技術への信頼を揺るがした。