2015年3月、国土交通省に一本の報告が届いた。 「免震ゴムが性能基準に達していない可能性がある」――。 報告したのは、東洋ゴム工業株式会社。 その瞬間、日本全国154棟の建築物の“足元”が揺らぎ始めた。
🧩免震ゴムとは何か
免震ゴム(正式名称:高減衰積層ゴム支承)は、建物の基礎部分に設置される装置。 地震の揺れを吸収・緩和し、建物の損壊を防ぐ役割を持つ。 その性能は、国土交通大臣の認定を受けることで保証される――はずだった。
🧪偽装の構造:3つの不正
① 大臣認定の不正取得
技術的根拠のない数値を申請書類に記載し、認定を受けていた。
② 検査結果の改ざん
性能検査時に“補正”を加え、基準を満たしているように見せかけていた。
③ 検査成績書の偽装
出荷時に顧客へ渡す成績書の数値を、品質保証部が書き換えていた。
📉発覚の経緯:内部告発と沈黙
2012年、ある技術者が「補正の根拠が不明」と疑問を抱く。 上司に報告するも、対応はなし。 2014年、社内で問題が共有されるが、出荷は続行。 2015年2月、弁護士の助言でようやく出荷停止が決定され、国交省へ報告された。
🏢影響と対応
- 対象建築物:マンション・庁舎・病院など154棟
- 交換対象:5,725基のうち2,730基が性能基準未達
- 国交省の対応:全棟の安全性検証と交換支援
国交省は制度見直しを実施し、性能試験への第三者立ち会いなどを義務化した。
⚖️企業責任と倫理の崩壊
この事件は、単なる技術ミスではない。 それは、技術力不足・品質管理の丸投げ・縦割り組織・営業部の圧力―― 複数の要因が絡み合った「組織的偽装」だった。
過去にも断熱パネルの性能偽装を起こしていたにもかかわらず、教訓は活かされなかった。
✒️あとがき:揺らいだのは建物だけではない
免震ゴムは、人々の命を守る“最後の盾”だった。 その盾が、数字の改ざんによって脆くなっていたとしたら―― 揺らいだのは建物の足元だけではない。 それは、技術への信頼、企業への期待、そして社会の倫理そのものだった。