第1話|エリエールの影──カジノに消えた165億円
🕰️プロローグ:その電話は、午後3時に鳴った。
「あと10億。今日中に振り込めるか?」
電話の向こうで、財務部長の手が震えていた。 契約も担保もない。 ただ「井川会長の指示です」という言葉だけが、すべてを動かした。
その日、紙の王国は静かに崩れ始めた。
🏛️第1章:王族の肖像──井川意高という男
東大卒。文壇にも顔を出す知識人。 だが彼が夢中になったのは、文学でも経営でもなく──カジノだった。
マカオ、シンガポール、ラスベガス。 VIPルームの静寂。チップの山。 勝利の快感。敗北の焦燥。 そして、次の一手に賭ける衝動。
彼は言った。
「俺の名前が、信用だ」
その“信用”で、165億円が動いた。
💸第2章:紙の帝国──大王製紙という舞台
エリエールで知られる大王製紙は、戦後日本の生活を支えてきた「紙の王国」。 創業家・井川家は、その王国の王族だった。 社内では「井川様に逆らうな」が暗黙のルール。 取締役会は形骸化し、子会社は“家臣”のように従った。
資金は、電話一本で動いた。 無担保・無契約。 ファミリー企業を経由し、個人口座へ。
📉第3章:沈黙の構造──なぜ誰も止められなかったのか?
問題点 | 内容 |
---|---|
📞電話一本で融資 | 子会社役員に直接指示し、資金を送金 |
📋契約書なし | 多くの融資が無契約・無担保で実行された |
🏛️取締役会の形骸化 | 融資に関する事前承認は一切なし |
🔄迂回融資 | ファミリー企業を経由して個人口座へ送金 |
🧎企業風土 | 創業家への絶対服従が根付いていた |
⚖️第4章:崩れる王国──事件の発覚と逮捕
2011年、事件は報道された。 「会長、カジノで165億円を浪費」 「創業家支配の闇」 「企業ガバナンスの崩壊」
世論が沸騰する中、井川意高は逮捕された。 特別背任罪。懲役4年。 紙の王国は、信頼という土台から崩れ始めた。
🧠エピローグ:これは誰の責任だったのか?
信頼は、紙よりも薄い。 だが、再建には紙よりも厚い覚悟が必要だ。
この事件は、単なる背任ではない。 「誰も止められなかった」という沈黙の構造こそが、最大の罪だったのかもしれない。
📢次回予告|第2話「告発の代償」
- 社内で孤立する若手社員
- メディアの圧力と創業家の沈黙
- 新社長の登場とガバナンス改革の始まり