🕰️プロローグ:異常な鉄筋量
2005年10月、東京・北千住。 あるマンションの施工現場で、現場監督が首をかしげた。 「鉄筋、少なすぎないか?」 設計図と現場の構造が、どうしても一致しない。 検査を依頼された設計事務所は、驚愕の事実にたどり着く。
構造計算書――地震に耐えるはずの“設計根拠”が、偽造されていた。
🧑💼第1章:姉歯建築士の“改ざん”
事件の中心にいたのは、一級建築士・姉歯秀次。 彼は、国土交通大臣認定の構造計算ソフトの出力データを改ざんし、 耐震強度を“見かけ上”満たすように偽装していた。
- 実際の耐震強度:震度5強で倒壊の恐れ
- 改ざん後の強度:震度7でも耐えると記載
その結果、分譲マンションやホテルなど多数の建物が、 “殺人マンション”と揶揄される事態に。
🧾第2章:データ不正の構造
姉歯は、意匠設計事務所の下請けとして構造計算を担当。 責任の所在は曖昧で、チェック体制も緩かった。
- 構造計算プログラムは“認定済”で信頼されていた
- 民間の確認検査機関は、計算過程を検証しなかった
- 建築確認は“早くて緩い”民間機関が主流に
つまり、改ざんしても誰にもバレない構造だった。
🏚️第3章:崩れた人生設計
偽造された構造計算書に基づいて建てられた物件は、全国に拡大。
- 分譲マンション:建替え支援はあったが、二重ローンに苦しむ住民多数
- ビジネスホテル:営業停止、倒産
- 投資物件:資産価値ゼロに
「家があるのに、住めない」 「ローンだけが残った」 被害者の声は、制度の隙間に吸い込まれていった。
⚖️第4章:個人犯罪か、構造的腐敗か
裁判では、姉歯建築士に懲役5年・罰金180万円の実刑判決。 だが、建設会社・デベロッパー・検査機関・コンサル会社の関与は曖昧なまま。
- 「知らなかった」
- 「信頼していた」
- 「確認済証があるから問題ない」
責任は、個人に押し付けられた。
🧠エピローグ:揺らいだのは建物だけではない
この事件は、建築制度そのものの“耐震性”を問うものだった。 構造計算書は、建物の命綱。 だが、その命綱が“改ざん可能”だったことが、最大の問題だった。
- なぜチェック体制は機能しなかったのか?
- なぜ民間検査機関は見抜けなかったのか?
- なぜ制度は“信頼”に依存していたのか?
揺らいだのは、建物だけではない。 制度、信頼、そして人々の暮らしそのものだった。