第1章：静かな冷蔵庫
2001年の冬、兵庫県西宮市。 西宮冷蔵の倉庫には、静かに牛肉の箱が積み上げられていた。 ラベルには「国産牛」と書かれている。 だが、その中身は──オーストラリア産だった。
水谷洋一社長は、黙ってその箱を見つめていた。 「これは、補助金のための偽装だ」 そう気づいた瞬間、彼の中で何かが動き始めた。
第2章：制度の穴
その年、日本では初めてBSE（狂牛病）感染牛が確認された。 消費者の不安を受け、農水省は「国産牛肉買い取り制度」を導入。 目的は、検査前の国産牛を買い取り、焼却処分することで安心を提供すること。
だが、制度には穴があった。 「国産」と申告すれば、補助金が出る。 検査も、現物確認も、厳密ではなかった。
雪印食品は、その穴を突いた。 外国産牛肉を国産と偽り、約2億円の補助金を不正受給していた。
第3章：告発という選択
水谷社長は悩んだ。 告発すれば、取引先を失う。会社も潰れるかもしれない。 だが、沈黙は「共犯」だ。
2002年1月、彼は記者会見を開いた。 「これは偽装です。うちの倉庫で行われました」 その言葉は、全国に衝撃を与えた。
雪印食品は謝罪。だが、信頼は戻らず、同年3月に会社は解散。 一方、西宮冷蔵も取引停止に追い込まれ、廃業した。
第4章：正義の代償
「正しいことをしたのに、なぜ潰れたのか」 水谷社長の問いは、今も重く響く。
彼の告発は、食品業界の透明性を問うきっかけとなった。 だが、内部告発者が守られる仕組みは、当時ほとんどなかった。
🧠問いかけ：あなたならどうする？
- 偽装を知ったとき、沈黙するか、告発するか
- 「正義」と「生活」のどちらを選ぶか
- 消費者として、何を信じるべき
