🕰️プロローグ:四日市の空に、何が漂っていたのか
2008年、三重県四日市市。 石原産業の工場では、酸化チタンの製造が続いていた。 白く美しい顔料──だが、その副産物は、白くない。 フェロシルトと呼ばれる“土壌改良材”は、実は産業廃棄物だった。
そして、その工場では、もうひとつの“見えない毒”が生まれていた。 ホスゲン──第一次世界大戦で使われた化学兵器。 それが、無届けで製造されていた。
🧪第1章:フェロシルト──夢の商品の裏側
石原産業は、酸化チタンの製造過程で出る廃棄物を「フェロシルト」として再利用しようとした。 「環境に優しい土壌改良材」──そう謳われた商品は、実際には未完成だった。
- 有害物質:六価クロム、フッ素、ホウ素など
- 処理費用:販売価格の20倍を裏で支払い、不法投棄
- 投棄量:12万トン以上、全国100か所以上
この“環境商品”は、環境を蝕んでいた。
☣️第2章:ホスゲン──化学兵器の影
2008年、経済産業省が石原産業を告発。 容疑は、化学兵器禁止法違反。 農薬原料として使用されるホスゲンを、無届けで製造していたのだ。
ホスゲンは、吸引すると肺水腫を引き起こす猛毒。 第一次世界大戦では、毒ガス兵器として使用された。 その製造には厳格な届け出が必要だった。
だが、石原産業はそれを怠っていた。
📉第3章:放射線と沈黙
フェロシルトの廃棄物には、微量の放射性物質が含まれていた。 四日市工場から搬出された廃棄物の空間放射線量率は、 最大で0.11μGy/hに達していた。
自主管理基準値は0.14μGy/h以下。 つまり、基準内ではあるが、バックグラウンド値(自然放射線)より高い。 この“見えない放射線”は、住民の不安を静かに広げていた。
🧠第4章:組織の病理
事件の中心には、四日市工場の元副工場長・佐藤驍がいた。 彼は、フェロシルト開発、有機物残渣の投棄、ホスゲン製造── すべてを主導していたとされる。
- 部下の異議は無視
- 職制や労組も機能せず
- 社長は不正を知りながら2年間公表せず
石原産業は「個人の暴走」と主張したが、 その背後には、隠蔽体質と利益優先の組織文化があった。
🧩エピローグ:沈黙の代償
この事件は、企業が「環境に優しい」と言いながら、 環境を蝕み、法を破り、住民を欺いた構造的腐敗だった。
- なぜホスゲンを無届けで製造したのか?
- なぜ放射線量を“基準内”で済ませようとしたのか?
- なぜフェロシルトを“夢の商品”と呼んだのか?
沈黙する工場の中で、 毒は静かに広がっていた。